現場に寄り添った開発を通じて
新たな価値を迅速にお届けする
バイエル クロップサイエンス株式会社
開発本部 製剤技術部 製剤技術・工業化研究室
製剤技術・工業化研究員
木内 あゆみ
予測が難しい自然と向き合う
私たち製剤技術部の主な仕事は有効成分の能力を最大化し、弱点を補えるように処方を検討することから始まります。例えるなら、おいしい料理のためのレシピを研究することに近いです。製品(おいしい料理)にどのような特性(食感、味や風味)を持たせるかは有効成分(肉、魚や野菜)や処理方法(調理法)などにより様々で、その目的に応じた活性剤やそのほかの成分(調味料やほかの食材)を組み合わせて処方(レシピ)を作ります。その後、生物効果や薬害性を試験圃場で確認しながら効果を高めると同時に、製品品質を担保するための安定性試験、安定供給に向けた製造試験を経て処方を完成させます。その後更なるプロセスを経て、新規製剤として市場に届けられます。
農薬は医薬品などと違い、一度散布されると、土壌や作物の状態、気象条件など外部環境に大きく影響を受けるというのが特徴です。ラボでは高い効果を示した製剤が、圃場では土壌中の微生物に分解され、思ったような効果が得られないことや、複数の外的要因の影響を受けるためパターン化が難しい面もあります。また、バイエルでは、各国が定める基準に加えて独自の基準を設け、ヒトと環境への安全性評価を行うため、高い安全性と有効性の両立が求められます。加えて、継続してご使用いただくためにはコストの最適化も必要です。
革新性を目指した製品、経験したことのない技術開発等では圃場試験用製剤を作り上げるまでにラボでの処方検討だけでも100回以上試行錯誤を繰り返し、圃場試験結果を受けて再度やり直し、さらに処方検討を重ねて翌年の圃場試験に再チャレンジすることもあり、難しい検討が数年に及ぶこともありますが、多くの壁を乗り越え、価値ある製品をお届けできることは開発の醍醐味です。
日本特有の課題解決を見据えた開発
バイエルでは、安全性と有効性はもちろんのこと、農家さんが直面する課題解決に着目した新しいコンセプトのソリューションを開発しています。日本における水稲栽培は、農業法人や大規模農家による集約化により栽培管理面積が拡大している傾向にあります。また水分を多く含む田んぼではぬかるんで作業がしにくかったり、農機が入りにくいなどの課題もあります。そのため、少ない散布回数で効果を発揮できる技術の提案は、農家さんの作業負荷の低減につながります。
私が初めて携わった、日本独自の開発である水稲種子処理技術「シードグロース」は、種もみに直接薬剤を塗沫処理することで、田植え後や播種後の本田での病害虫防除を実現し、省力化に貢献する新しいソリューションです。また種子を浸漬して発芽させる日本の農法に沿って使用できるよう、種もみにコーティングした有効成分や色素が流れ出ないような加工技術を施すことで、様々な栽培技術に適用できます。
バイエルには長年培ってきた水稲栽培の労力軽減、コスト削減、持続可能性を実現できる製品開発技術がありますので、製剤自体の安全性や有効性だけでなく、現場が直面する多様な課題に寄り添った具体的な解決策をイメージして開発に生かすことができるのは大きな魅力です。日本がリードして開発した「水田雑草 テーラーメイド防除」もその一つです。日本のバイエルが開発した4つの単一有効成分による4つの高濃度フロアブル製剤を、個々の圃場の雑草に合わせて必要なものを必要な量散布する技術は、自由な発想と全社を挙げて歩んできた長い道のりの中から生み出された大きなイノベーションです。特にカウンシルワンフロアブルは、ラボでの処方開発から最後まで担当した製品ですので、現場からのフィードバックが楽しみなソリューションです。
多様なメンバーのナレッジを通して開発を加速
研究所には様々なバックグラウンド持つ社員がいますが、バイエルには日頃から個人を尊重し合い、仕事とプライベートの両立支援やオープンに意見を出し合うことが当たり前になっていることが、モチベーションやイノベーションを後押ししていると感じます。現在、散布手段の多様化に伴い、複数のチームと連携して、ドローンをはじめとした散布技術の開発にも注力していますが、一人では行き詰ってしまうことでも、幅広い知識と豊富な経験を持つ社員が保有するナレッジを出し合うことで、それが重要な手がかりとなり、開発を加速しています。
最近ではデータベースを活用した製剤開発の取り組みがグローバルで進んでいます。個々の開発者の頭の中に蓄積されている技術や経験値がグローバル規模でデータベース化されるようになれば、バイエル全体の知見のさらなる拡充を通して、より良い製品をより早く市場にお届けできるようになるのではないかと考えています。
農業における技術だけでなく、開発プロセスについても多様化が進む中、現場の農家さんが価値を感じていただけるようなソリューション開発と提案を通じて、持続可能な農業に貢献していきたいと思います。